猫の鼻腔内リンパ腫について|鼻の中に腫瘍ができることがある?

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猫の鼻腔内リンパ腫

猫のリンパ腫は体のどこにでも発生する可能性があり、鼻腔内は比較的、リンパ腫の発生率の高い場所とされています。

猫の飼い主様の中には、
「近頃よく鼻血を出す」
「鼻の形が少し変わってきた?
「くしゃみや鼻水が多いけど、風邪をひいたことは今までもあったし、今回も猫風邪かしら?」
などと感じている・思われている方もいらっしゃるかと思います。

それらは鼻腔内のリンパ腫が原因で起こっている可能性もあります。

今回はそんな猫の鼻腔内にできるリンパ腫について解説していき、みなさまの疑問や悩みが解決できれば幸いです。

■目次
1.リンパ腫とは
ステージ分類
2.鼻腔内リンパ腫とその症状
3.鼻腔内リンパ腫の診断
4.治療
抗がん剤
放射線治療
その他の治療
副作用
5.余命
6.鼻腔内リンパ腫の最期
7.まとめ

リンパ腫とは

リンパ腫とは血液由来の細胞であるリンパ球が腫瘍化することで起こります。

猫の悪性腫瘍の中ではリンパ腫が最も発生率が多く、リンパ節から発生する場合もありますが、臓器や組織から発生することもあります。
猫のリンパ腫の中で、鼻腔内は消化管に次いで発生が多いと言われています。

リンパ腫のステージ分類

猫のリンパ腫にもステージがあり、それによって治療反応や余命も変わってきます。

ステージ1:単一のリンパ節または骨髄を除く単一の臓器に限局している
ステージ2:単一部位の複数リンパに病変が存在している
ステージ3:全身のリンパ節に病変が存在している
ステージ4:肝臓および・または脾臓に病変が存在している
ステージ5:血液中、骨髄中に腫瘍細胞が存在している

鼻腔内リンパ腫とその症状

鼻腔内のリンパ腫の発症年齢は平均9歳前後ですが、その範囲は2歳から17歳と幅広く確認されています。

鼻腔内のリンパ腫の原因の一つに飼い主様の喫煙が挙げられており、猫の飼育環境下でタバコを吸うことは望ましくありません。

鼻腔内のリンパ腫の一部は他臓器(特に腎臓)に播種する可能性があります。

飼い主様が猫を病院に連れてくる理由で多いのは

  • ・鼻づまり
  • ・鼻水が出る
  • ・くしゃみが多い
  • ・目脂が多い
  • ・鼻すじの形の変形
  • ・いびきが大ききくなった

などが多いです。

以下が腫瘍によって顔面が変形してしまった猫の画像です。

苦手な方はご注意ください。


鼻腔内リンパ腫の診断

血液検査などで診断をつけることは難しく、画像診断や病理組織学的検査で診断をします。

画像診断にはレントゲン検査CT検査MRI検査があります。
レントゲン検査は麻酔が不必要で、普段の診察で簡単に行うことができます。
得られる情報は、通常の鼻のトラブルで良くある鼻炎所見から腫瘍を強く疑う所見まで様々で、多くの場合は鼻炎と腫瘍を鑑別できません。
CT検査やMRI検査は麻酔を必要としますが、レントゲン検査と比較し、より詳しい検査結果を得ることが可能です。

病理組織検査は、組織を取る器械を鼻に入れるので、動物では麻酔が必要です。

これらの診断結果を総合的に判断し、鼻のトラブルが菌やウイルスなどの感染で起きているのか、腫瘍が原因かを判断します。

治療

猫の鼻腔内リンパ腫に対する効果的な治療は現在研究段階です。
実際行われている治療は、抗がん剤放射線療法またはその両方があります。

抗がん剤

抗がん剤治療は、全身療法となります。
そのため、鼻以外のリンパ節や腎臓などの臓器にリンパ腫が播種している場合は、そのリンパ腫にも効果をもたらします。
COPまたはCHOP±L-アスパラギナーゼ療法と言われる治療法が多いです。
C、H、O、Pはそれぞれ薬剤の略称で、

C:シクロフォスファミド
H:ドキソルビシン
O:ビンクリスチン
P:プレドニゾロン

であり、これらを組み合わせて行います。

放射線療法

放射線治療は手術、抗がん剤と並ぶもう一つのがん治療です。

最近では、動物腫瘍の治療にも放射線療法が行われています。
放射線をがん細胞に照射することにより、がん細胞のDNAを破壊し細胞を死滅させます。
放射線療法のメリットは、腫瘍部分と治療に必要な最低限の周りの正常組織に限定して治療を行うことができるということです。
そのため副作用が全身に及ぶことはありません。
しかし、局所的な治療(鼻のリンパ腫であれば鼻)となるため、他のリンパ節や臓器に播種がある場合は、その部分の治療効果に期待はできません。
また、放射線の線量に限度があり、治療の回数が限られます。

その他の治療

猫の状態やご家庭の事情から強い抗がん剤を使用できない、放射線治療ができないこともあるかと思います。
その場合はステロイドのみの投薬を実施することもあります。

ステロイドはリンパ球を傷害する効果が期待できることから、抗がん剤治療のプロトコールの中にも組み込まれています。
そのため、一時的なリンパ腫の改善は期待できます。
抗がん剤ではないため、抗がん剤で見られる副作用もありませんし、猫の排泄物に抗がん剤の成分が混ざることもありません。

副作用

抗がん剤の副作用には

  • ・骨髄抑制による白血球の減少
  • ・食欲不振
  • ・嘔吐
  • ・下痢
  • ・倦怠感

など全身的な副作用があります。

放射線の副作用には治療直後に見られる急性障害と、治療して時間が経ってから見られる晩発障害があります。

  • ・脱毛
  • ・皮膚炎

などは急性障害としてよく見られ、治療が終了すれば回復します。

  • ・白内障
  • ・骨壊死

などは晩発障害として見られ、回復までに年単位あるいは永久的な障害になる可能性があります。

余命

抗がん剤単独での治療では生存期間の中央値は2.7~15.2ヶ月という報告があります。

放射線治療単独では11.5ヶ月~33.8ヶ月で放射線治療±抗がん剤では5.2~31ヶ月と言われています。

ただし、この放射線単独の治療をおこなった猫は、リンパ腫が鼻に限局していた「ステージ1」である症例が多く、抗がん剤や放射線治療と抗がん剤を組み合わせた治療を行なった症例は鼻腔内以外にも、近くのリンパ節や他の臓器に播種している「ステージ2」以上であるという背景も考慮する必要があります。

今のところ、ステージ1の鼻腔内のみにとどまるリンパ腫は放射線治療が推奨され、ステージ2以上であれば抗がん剤±放射線治療が最も生存期間の延長が期待できるという報告もあります。

抗がん剤単独の治療でも、完全に腫瘍が消失した状態(完全奏功)まで治療することができれば、長期の生存が期待できると言われています(生存期間中央値11.9~25ヶ月)。

鼻腔内リンパ腫の最期

鼻腔内リンパ腫の最期は症例ごとに異なり、必ずこうなるというものはありませんのでご注意ください。
まず、鼻が腫瘍で占拠されてしまうことにより、苦しくなることが予想されます。
口呼吸により空気を飲むことで胃が空気で膨らみ、食欲が低下する可能性があります。

また、腫瘍が鼻の中の骨を溶かしていきますので、痛みを引き起こします。

他の臓器(腎臓が多い)への播種により、その臓器の機能が低下することもあります。

リンパ腫は全身のリンパ節への播種も多いことから、強い倦怠感に襲われると考えられます。

これらの症状は注射や内服薬で楽にすることが可能です。
食欲の低下や痛みなどの治療で腫瘍の進行は止めることはできませんが、猫の苦痛を緩和することはできます。
ご希望の際は動物病院にご相談ください。

まとめ

鼻腔内リンパ腫は発症年齢が幅広く、若いからといって完全に腫瘍を否定はできません。
また、症状も猫風邪の症状と似ていることから、最終的な診断までに時間がかかる場合があります。
いつもの猫風邪が長引いている、出血がある、悪化している場合は早めに病院へご相談ください。

リンパ腫を治療している間の体重維持は大切と言われており、急激に体重が減っている猫の生存期間(平均3.1ヶ月)は、体重が減っていない猫の生存期間(平均7.1ヶ月)と比べて短いと言われています。

その他にも貧血や、鼻と頭を分ける篩板という薄い骨が破壊されている場合は予後が悪いと言われています。

リンパ腫の治療を成功させるためには治療だけで無く、栄養管理が重要であり、ご家族の協力が必要不可欠です。
愛猫にとって何が一番良いのか、ご家族様と獣医師で相談して治療方針を決めていきましょう。

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