2024/03/25
猫の虹彩メラノーマについて
猫の体にも様々な臓器に腫瘍ができますが、その中でも比較的珍しい、眼球にできる腫瘍があることを皆様ご存知でしょうか?
猫の腫瘍の中でも目の腫瘍の発生率は2%以下ですが、その中で虹彩メラノーマ(悪性黒色腫)が最も多いと言われています。
猫の虹彩メラノーマは他の臓器への転移もしやすく命に関わることもありますので、しっかり解説していきます。
■目次
1.猫の虹彩メラノーマとは
2.診断の第一歩
3.動物病院での検査
4.治療方法
5.早期発見をするために
6.まとめ
1.猫の虹彩メラノーマとは
冒頭でも書いてある通り、虹彩メラノーマは猫の目において最も多い腫瘍です。
高齢の猫(9歳以上)での発症が多く、雌雄差や好発猫種はありません。
55~66%以上の症例で、肺や肝臓に転移を引き起こすことが報告されています。
しかし、転移は比較的ゆっくり進行することが多く、手術による治療後、1~3年後に転移が分かることも珍しくありません。
よく見られる症状には、眼球サイズの変化、目をしょぼつかせる、充血している、目の色が変わる、虹彩に暗〜黒色の斑点ができる、左右の黒目の大きさが違う、黒目がボコボコしている、などが挙げられます。
2.診断の第一歩
上記の症状の中でも飼い主様がよく気づいてくださる症状は、目の色が昔と違う、左右違っている、目の中に黒い斑点がある、です。
この斑点は徐々に大きくなり、数が増え、色が濃くなっていくことが多く、毎日見ているとその変化に気づきにくい場合もあります。
そのため、気づいた時には手遅れに…なんてことも珍しくない病気です。
3.動物病院での検査
一般的に虹彩メラノーマを診断するためには、眼科検査、超音波検査を行います。
眼科検査は目の状態や、虹彩が腫れていないか、また他の目の合併症が起きていないかを診断していきます。
超音波検査では眼球内に形成される腫瘤が確認できる場合もあります。
その他、転移巣を確認するために、胸部レントゲンや腹部超音波を実施する場合もあります。
虹彩メラノーマでは、目に近い下顎のリンパ節の腫れが確認されることもあり、リンパ節の細胞診をすることで、虹彩メラノーマの診断の一助となることもあります。
ただし、虹彩メラノーマと確定診断するためには、実際に眼球を摘出し、病理組織検査を行わなければ不可能と言われています。
4.治療方法
虹彩メラノーマの治療方法は、確定診断をする時同様、外科手術による眼球摘出です。
しかし、その手術方法から二の足を踏むことも少なくありません。
そのため、虹彩メラノーマの診断・治療は慎重に行われるべきです。
全ての症例に当てはまる訳ではありませんが、眼球摘出の適期は、瞳孔不整、瞳孔不同、虹彩1/3以上の黒色化・変色化、角膜輪部の変形や眼球サイズの異常(牛眼)が見られた時という報告もあります。
眼球を摘出した14頭の猫のうち、10頭は診断後平均156日で、安楽死が実施され、4頭は診断後、平均255日の段階で症状なく生存しているとのことでした。
また、その14頭中10頭は転移があり、下顎リンパ節への転移が8頭、全身性の転移が4頭であったという報告があります。
それだけ手遅れになりやすい病気ということですね。
眼球摘出後は、摘出した目の病理検査の実施を行い、確定診断を行います。
必要に応じて腫瘍細胞の増殖抑制に一定の効果があるとされているCOX-2阻害薬を使用します。
また、年1回の対側眼の眼検診を行います。
ちなみに抗がん剤治療や放射線治療は未だ確立してはおらず、経験的な使用に委ねられている状況です。
5.早期発見をするために
眼球摘出時の腫瘍が虹彩に留まっている場合と、毛様体まで進行している場合や強膜まで進んでいる場合では生命予後に差があるという報告があります。
また、腫瘍による合併症である緑内障がある群の5年以内の生存率は21%で、なし群は73%と生命予後も変わってきます。
猫は犬と比べて、予防医療の観点や病院に連れて行きづらいという理由から、診察を受ける回数が圧倒的に少ないと言われており、獣医師に相談する回数も減ってしまいます。
家で気づける症状が出ても、「気のせいかな?」「少し様子をみようかな?」と時間が経ってしまうことも多くあります。
目の中に黒い斑点がある、左右の目が違う気がする…など、異変に気付いた場合は、信頼できる動物病院でしっかり診察を受けましょう。
6.まとめ
虹彩メラノーマの症状の一つである目の中の黒い斑点は、ただの色素沈着の場合もあり、初期の場合は経過をしっかり見て行くことが大事です。
また、治療法が眼球摘出というやり直しのきかない方法であることから、その治療は慎重に行うべきだと考えます。
虹彩メラノーマは高齢の疾患で、転移の進行も比較的ゆっくりであることから症例に合わせた治療が必要だと言えるでしょう。
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