2024/05/27
犬の突発性後天性網膜変性症(SARDS)について
突発性後天性網膜変性症(SARDS)は、犬でみられる、突然両眼が見えなくなってしまう病気です。
突然失明してしまうなんて聞くと、心配になりますよね。
犬の眼が見えているかどうかは飼い主様にわかりにくいこともあり、失明していることに気付いてあげるためのポイントや、失明してしまったときの対策を知っておくことも大切です。
今回はSARDSについて、また失明したときの症状や対策なども併せてご紹介します。
■目次
1.SARDSの症状と原因
2.SARDSを診断するためには
3.SARDSの予防と治療方法
4.失明しても豊かに暮らすための方法
5.まとめ
SARDSの症状と原因
網膜とは、眼の奥にあり視覚において重要な組織です。
網膜の視細胞には、眼に入った光の情報を受け取り、視神経を介して脳へと伝える役割があります。
SARDSでは、網膜の視細胞が急速に細胞死を起こすことで、数日~数週間ほどで視覚を失います。
発症初期には、突然の失明による次のような行動の変化がみられます。
- ・物にぶつかる、物を目で追わなくなる
- ・興奮している様子がある
- ・動揺し落ち着きがなくなる
- ・寝ている時間やじっと動かない時間が長くなる
- ・嗅覚が鈍くなる
- 眼の見た目には目立つ変化がなく、健康な犬で突然発症するため、気付かれにくいことも多いです。
SARDSの原因は、自己免疫異常や中毒など諸説ありますが、現段階でははっきりわかっていません。
全ての犬種で起こり得ますが、日本では次の犬種での発症が多いという報告があります。
- ・ミニチュア・ダックスフンド
- ・ミニチュア・シュナウザー
また、中齢の雌犬で多いともいわれています。
SARDSを診断するために
視覚の異常が疑われる場合、眼科検査を行います。
視覚の検査では、光や物の動きに対する反応をみていきます。
眼底検査では眼の奥を直接見て網膜を確認しますが、SARDSでは網膜に明らかな異常所見を認めないのが特徴です。
発症から数週間~数ヶ月経過すると、視細胞の萎縮が起こり、眼底検査においても網膜の変性がわかるようになります。
より詳しい検査としては、網膜電図検査があります。
視覚消失の原因として、網膜の異常などの眼疾患のほかに、中枢性失明(視神経や脳の異常による失明)が考えられます。
鑑別のために網膜電図検査を行い、反応がなければ網膜疾患、反応があれば中枢性失明と診断されます。
SARDSの予防と治療方法
残念ながら、SARDSの予防方法はありません。
治療方法も確立されておらず、失った視力を回復するのは難しいのが現状です。
ただし、完全失明する前に早期発見・早期治療ができた症例の一部で、視覚がそれ以上低下しないように維持できたとされる報告はあります。
視覚が明らかに改善しなくても、治療を行うことで動きが良くなるなど全身状態の改善が認められることもあります。
治療には、ステロイド剤や免疫抑制剤などが用いられます。
治療開始が早ければ早いほど視覚や全身状態を改善できる可能性が高いので、早めに眼が見えづらくなっていると気付いてあげることが重要です。
失明しても豊かに暮らすための方法
SARDSでは突然失明してしまうので、犬の生活は急変し困惑してしまいます。視覚のない生活に慣れるまでは時間がかかります。
同じように、飼い主様も犬の行動の変化に戸惑ってしまうことが多いです。
犬が失明してしまっても、犬と飼い主様が豊かに暮らすためにできることをご紹介します。
①ぶつかって怪我をしないようにする
ぶつかる行動が多いと、眼に傷ができ角膜潰瘍を発症するなどの危険があります。
具体的な対策としては、
- ・エリザベスカラーを装着する
- ・角になる場所にクッションを設置する
- ・部屋にサークルを設置する
- ・散歩コースでは溝や段差などを避ける
などが挙げられます。
②視覚以外の感覚を使った生活をトレーニングする
眼が見えない犬は、突然触られたり、リードを引っ張られたりすると驚いてしまいます。接するときは、先に声をかけるようにしましょう。
リードやおもちゃに鈴など音が出る物をつけるのも良い方法です。
ごはんは匂いでわかるように、鼻の近くまでもっていってあげましょう。
また、犬は見えなくても動きの慣れである程度生活ができます。
ごはんやトイレの場所を固定し、物の配置を変えないようにしましょう。
まとめ
SARDSは、急速に失明してしまう病気で、治療での視覚の回復は難しいのが現状です。
眼の見た目に問題がなくても、行動の変化から眼が見えていないと気付けることがあります。
物にぶつかる、動きが少なくなったなど気になる変化があれば当院までご相談ください。
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