2024/04/09
犬の自発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)について
自発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)は、再生した角膜が正常に付着しないために発生する病気です。通常の角膜潰瘍は重度ではない限り、適切な点眼治療によってほとんどが1ヶ月以内に治癒します。しかし、この病気は通常の角膜潰瘍と比べて治癒が遅く、治ったとしても再発する特徴があります。
犬の自発性慢性角膜上皮欠損はボクサー犬に多く見られることから「ボクサー潰瘍」とも呼ばれていますが、実際には他の犬種においても発生することがあります。
今回は犬と猫の自発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。
■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ
原因
角膜は、外側から角膜上皮、角膜実質、デスメ膜、角膜内皮4層で構成されています。
角膜潰瘍とは、角膜に外傷や感染、神経異常、形状問題、免疫異常などが原因で傷がつき、その傷が進行して深くなる状態をさします。
通常、傷口からは角膜上皮が再生し、この再生した角膜上皮が角膜実質にしっかり密着しながら徐々に傷が塞がります。
しかし、自発性慢性角膜上皮欠損の場合、この再生した角膜上皮が角膜実質にうまく密着せず、角膜が修復できない、または修復してもすぐに剥がれてしまいます。
これにより、正常であれば治るはずの角膜潰瘍が治りにくく、治ってもすぐに再発してしまいます。
自発性慢性角膜上皮欠損の発生原因は完全には明らかではありませんが、犬においては特にボクサー犬での発生が多いことから「ボクサー潰瘍」と呼ばれています。
しかしながら、ボクサー犬だけでなくフレンチ・ブルドック、ウェルシュ・コーギー、ゴールデン・レトリーバー、チワワ、シーズー、トイ・プードルなどの犬種でもこの問題は確認されています。
症状
主な症状は通常の角膜潰瘍と同じで、目をしょぼつかせる、涙が多くなる、黄色い目やにの発生、目の充血、角膜が白く濁るなどです。これらの症状は、角膜に何らかの損傷や炎症が起こっていることを示しています。
しかし、自発性慢性角膜上皮欠損の場合、これらの一般的な角膜潰瘍の症状が、治療をしても治らない、もしくは治ったとしても短期間で再発してしまうことが大きな特徴です。
診断方法
角膜潰瘍が治りにくく、再発を繰り返す原因は他にも考えられるため、正確な診断を行うことが重要です。
このため、目の詳細な検査だけでなく、全身の健康状態を把握するためにも、血液検査やホルモン検査など行い、慎重に診断を進めます。
角膜の状態を視覚的に評価するためには、フルオレセイン染色が効果的に使用されます。このテストでは、フルオレセインという特殊な染料を角膜に適用し、角膜の傷を明確に確認できます。スリットランプ検査は、さらに詳細な観察を可能にし、傷の深さや範囲を正確に把握するのに役立ちます。
加えて、角膜上皮が適切に付着しているかを確認するために、滅菌綿棒を用いて目の表面に優しく触れるテストが行われることがあります。この方法により、角膜上皮の剥離や密着不良がないかを検証し、自発性慢性角膜上皮欠損のような特定の状態を診断するのに役立ちます。
治療方法
通常の角膜潰瘍であれば、点眼治療によって治癒が期待できますが、自発性慢性角膜上皮欠損の場合は外科手術が必要です。
当院では、再生した角膜上皮の密着を促進するために、眼科専用のドリルであるダイヤモンドバーを使用して角膜表面を削る手術を行っています。ダイヤモンドバーを用いたこの治療法は、治癒後の跡が残りにくいという利点があり、治療成績にも優れています。
角膜の傷の状態が深刻な場合には、医療用コンタクトレンズを装着することで治療を補助する場合もあります。
治療は通常、複数回にわたって行うことが多く、治療の効果の確認は5〜7日後に行われ、治療全体としては半月から1カ月程度を要する場合があります。
術後は、ペットが自らの目を傷つけないよう、エリザベスカラーを装着します。また、ご自宅での点眼治療を継続し、その経過を注意深く観察していきます。
予防法やご家庭での注意点
自発性慢性角膜上皮欠損の発生原因はまだ完全には解明されていないため、予防は難しいでしょう。
角膜潰瘍自体は犬で比較的よく見られる病気ですが、自発性慢性角膜上皮欠損の場合、通常の点眼治療だけでは十分な効果が得られず、治療にはより積極的なアプローチとして外科手術が必要になることがあります。
角膜潰瘍は、初期段階で適切に治療しないと重症化するリスクがあります。そのため、愛犬の目がしょぼついている、涙が多くなる、黄色い目やにの発生、など気になる症状がある場合は、なるべくお早めにご来院ください。
まとめ
自発性慢性角膜上皮欠損は、通常の角膜びらんや角膜潰瘍に比べ治療が難しく、傷がついた角膜が正常に修復できずに角膜潰瘍が治らなかったり繰り返したりする病気です。点眼治療をしても角膜潰瘍がなかなか治らない場合は、この病気を疑ってみてもいいかもしれません。
当院にも、なかなか治らない角膜潰瘍にお困りの飼い主さまから、セカンドオピニオンとしてご相談をいただきます。
治療をしているにもかかわらず角膜潰瘍の症状が続くようでしたら、ぜひご相談ください。
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